黒のスーツに陽射しが染み込んで、暑い。


黒いネクタイを緩めて、庭を見渡した。


健吾も修司も、ネクタイを緩めて顔を歪めていた。


「「暑っちー」」


母さんの趣味はガーデニングで、今年も数種類のトルコギキョウたちが庭を埋め尽くしていた。


淡いピンク、白、黄色。


白に紫や、白にショッキングピンク色の縁。


スズランを上向きにしたような、愛らしい形の花だ。


紫色の縁のトルコギキョウを1本摘んだ時、ネクタイを緩めながら修司が顔を覗かせた。


「へえ。きれいな花だな。初めて見た。何ていう花?」


非常に興味深そうな目で、修司はトルコギキョウをまじまじと見ている。


「うん。トルコギキョウ」


おれが言うと、「変わった名前だな」そう言って、修司はそこにしゃがみ込んだ。


「なあ、響也」


健吾がおれの首に腕を回して、となりにしゃがんだ。


「翠に、か?」


「うん、そう」


「なら、こっちのピンクの方がよくねえか? 翠なら、もっと派手な色のが喜ぶんじゃねえかな」


健吾が指差した先には、ショッキングピンク色の縁のトルコギキョウがあった。


「うん。じゃあ、これも」


とハサミを茎に伸ばした時、今度は修司が口をはさんだ。


「ピンク? けどさ、この黄色もいいんじゃねえかな」


淡い黄色一色だけのトルコギキョウを、修司が見つめている。


「だって、あの子。お日さまみたいに笑うだろ。お日さまって黄色のイメージ」


そう言って、修司はけたけたと笑いだした。


おれと健吾も目を合わせて笑った。


「じゃあ、この黄色のやつも」


これも、それも、あれも、と3人でトルコギキョウを摘んでいるうちに、とんでもない量になっていた。


「さすがにこれだけはいらないだろ。多すぎだ! って翠にどやされるぜ」


健吾がクックッと肩を震わせて笑った。


スーツのポケットから携帯電話を取り出す。