爽やかな笑顔が、おれの心臓を鷲掴みにした。


涙をぐっとこらえ、声を出せずにただ頷くおれを、西工業のエースが抱き寄せた。


「タフな左肩だなあ! 甲子園、期待してるからな!」



「おす」


初めて言葉を交わした相手なのに、おれたちはがむしゃらに抱き合った。


「甲子園は簡単には勝たせちゃくれねえぞ。全国の壁は分厚くて高い」


『勝利しました、県立南高等学校の、校歌斉唱です』


アナウンスが流れた時、ようやくお互いの体が離れた。


おれも、西工業のエースも、涙でぐしゃぐしゃに濡れた顔だった。


「本当に……頑張れよ!」


そう言って、西工業のエースは歯を食いしばって、もう一度、握手を求めてきた。


おれが握り返すと涙をぼろぼろこぼしながら、そいつはしっかりした口調で言い、深く一礼してベンチに戻って行った。


「人生最高の夏になった! ありがとうございましたっ!」


決勝で当たったのが南高で良かった。


その一言を添えた西工業のエースの背中は、陽射しに照らされて輝いていた。


もう、涙が止まらなかった。


負けたくせに、そいつはやたらめったらカッコいい去り方をしたのだ。


爽やかで潔く、散った。


これが、野球だ。


野球を知っている、本物のエースだ。


校歌斉唱をして1塁アルプススタンドに向かって一列に並び、頭を下げた。


歓喜にわく応援団の片隅で、若菜さんが泣いていた。


相澤先輩が優勝した2年前もこうして泣いていたけれど、その時よりも若菜さんは号泣していた。


ダッグアウトに入りアイシングをして、表彰式の準備ができるまで、地元スポーツ新聞の記者からインタビューの嵐にあった。


「嬉しいです。甲子園でも頑張ります」


もともとべらべら話すたちではないので、一言二言を返した。