大歓声とはほど遠い獣のような咆哮が渦を巻き、県立球場が崩壊してしまいそうなほどの地響きが、マウンドを揺らした。


「甲子園じゃー!」


勝利を掴んだグローブを突き上げたまま、泣きっ面の勇気が惜し気もなく鼻水を流しながら、マウンドに全力で駆けてくる。


左右、前からもナインたちが一気に集結した。


呆然としていたおれはもみくちゃにされて、マウンドにへたりこんだ。


何が起きたのか、すぐには理解できなかった。


勇気が突き上げるグローブにナインの人差し指が集まる。


1、1、1、1、1、1、1……。


へたりこみながら、太陽の陽射しに向かって伸びるみんなの人差し指を見つめていた。


その輪から1人外れて、肩をすくめ、右腕で顔を隠しながら、健吾が声を殺して泣いていた。


3塁側ベンチは深く沈み、でも、西工業のエースだけは晴れ晴れと空を見上げながら、涙で頬を濡らしていた。


バッターボックスにうずくまり泣き崩れた最終打席の、打者。


「ごめんな! 打てなくて……ごめんな!」


泣き叫ぶ打者を、西工業のエースが抱き起こした。


「いいよ。あんなにきれいな打球、お前しか打てねえよ」


西工業のエースの涙があまりにも清々しくて、その時、やっと理解した。


「最高のスイングだったぞ!」


試合終了。




100 020 010 4
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
000 310 000 3
西工業



南4―3西工業



先制し、逆転され、同点に追い付き、勝ち越して。


長すぎた2イニングを我を忘れて守り抜き、おれたちは勝利した。


「ありがとうございました!」


両チームが整列し、頭を上げたあと、お互いに握手を交わした。


「おめでとう。甲子園でも頑張れよ!」


おれの手を握りながら言ったのは、西工業のエースだった。