太陽が見てるから

なあ。


健吾。


修司。


勇気。


岸野、イガ、村上、遠藤。


大輝、昌樹。


花菜。


相澤先輩。


父さん、母さん。


さえちゃん。


それから、おれの1番大切なきみへ。


この一球に、おれは、夏を……かける。


カアーン!


大晴天の午後。


息を呑み、声を殺し、一瞬の静寂に包まれた県立球場に、甲高い音だけが木霊した。


金属バットに弾かれた一球は、夏をのせて、空固く打ち上げられた。


おれはマウンドに立ち尽くし、帽子を取った。


青空をバックに発光する白球を、目で追い掛けた。


サヨナラの走者が駆け出した。


打たれた。


サヨナラか。


鮮烈な放物線を描き、白球は無回転のまま、午後の青空を軽やかに伸びて行った。


息を止める。


額に滲んだ汗が1粒だけ、つつうと頬を伝い落ちて行った。


岸野もイガも、呆けたように立ち尽くしていた。


我を忘れて背走する、中堅手。


勇気が急ブレーキをかけ、バックスタンド前で立ち止まり振り向き、空を仰ぐ。


そして、静止した。


声が出せなかった。


わずか数秒のはずなのに、ひどく長い時間、その瞬間をマウンドで見つめていたような気がする。


時間が止まったような気がした。


放物線を描いた白球はゆっくりと下降し、構える中堅手のグローブに吸い込まれる。


音は、ない。


声も一切、聞こえない。


音の無い静寂に包まれた世界で、その瞬間を呆けたように見つめていた。


白球を吸い込んだグローブが、高々と突き上がった。


時間が動き出す。


音が戻った時、ようやく酸素を吸い込むことができた。


鼓膜が破れそうなほどのどよめきと咆哮が場内に流れ込み、地が轟き、アルプススタンドが激しく揺れた。