最悪な事に、修司とも部活の事で言い合いになって、口をきかなくなってしまった。


部活を休んでいる期間、野球が恋しくて仕方なかった。


グローブとボールを片手に1人で夕暮れの河川敷へ行き、橋の下の石壁にボールを投げて、跳ね返ってくるボールをグローブで受けて。


そんな日々が10日も続いた。


11日目にひどい後悔に教われ、橋の下で声を殺して泣いていた。


部活に戻りたい。


野球がしたい。


部活を休み続けている事にひどく後悔して、橋の下でうずくまり泣いていた時だった。


夕焼け色の河川敷に、練習着姿の健吾が手ぶらで現れて、泣きながら、こう言ったのだ。


「一緒に、野球やろうや!」


だれかにそう言ってもらうのを、おれは10日間も待っていたのだと、その時に気付いた。


情けなくて、恥ずかしくて、たまらなかった。


「いつまで部活休むんだよ!」


河川敷の橋の下で、健吾は涙をぼろぼろこぼしながら、おれの体を押し飛ばした。


「野球やろうや! 一緒に、野球やろうや!」


健吾の泣き声は川を挟んだ向こうの石壁から、後ろの石壁までビンビン響いて、おれの頭にも響いた。


うわああっと泣き出した健吾の後ろで、川の水面が夕日の色に染まりキラキラ輝いていた。


あの日、健吾が部活を抜け出して来てくれなかったら、おれは野球を辞めていたと思う。


橋の下で尻餅をついて呆けていたおれに、健吾が怒鳴ってくれていなかったら、今のおれはいない。


「逃げんなや! おれがいる! 響也の隣にはいつもおれがいる!」


「健吾」


「他のやつの球なんか、捕ってもつまんねえんだ! 響也の球を受けたいんだ!」


「泣くなよ! 明日から、ちゃんと部活に行くから!」


ごめんな! 、おれが泣き叫ぶと、健吾が突進してきておれを抱き締めた。