ハッとした。


おれは後ろを振り返り、バックスタンドを見つめながら、熱風にあおられていた。


もしも、あの日。


リトルリーグに入ってみたいと、父さんに言わずにいたら。


あの日、健吾に出逢っていなかったら、なんて考える。


おれは、今ここに、立っていないんじゃないかと思った。



―おまえ、野球すきなのか―


―キャッチボールできる?―


―おまえ、サウスポー? すげえすげえ!―


―おまえ、ピッチャーやるといいよ―


―こうこうせいになったら、いっしょに、甲子園に行こうぜ―



あの言葉たちが存在していなかったら。


やっぱり、野球なんて無理だ。


テレビで観ているのが1番いい。


なんて、リトルリーグ加入はしていなかったのではないだろうか。


あの日、野球未経験者のおれをマウンドに導いてくれたのは、健吾だ。


どんな時だって、前を向けば必ず健吾がそこにいて、ミットを構えていた。


健吾だから、今日までがむしゃらに投げ続けてこれた。


中学の時、初めて先発の練習試合でメッタ打ちにあった。


その試合の後も、健吾が隣にいた。


おれ、ピッチャーに向いてないんだよ。


いじけ半分、やけくそ半分で言ったおれに、中学生だった健吾はげらげら笑って言った。


―じゃあ、やめようか。おれも、キャッチャーやめる―


―なんで? 健吾は野球センスがあるから、やめる必要ないだろ―


―だって、響也がいないなら、野球つまんねえもん―


そこまで言ってもらえたってのに、おれはかなりの自信喪失状態だったから、翌日から部活を無断で休むようになった。


野球が、恐ろしくなっていたのだ。


5日も部活に出なくなると、野球部のみんなはさすがに呆れたのか、おれに声すらかけてくれなくなった。


健吾と修司以外は、全員。