同時に集まろうとした内野陣を見て、健吾が右手で制した。


来る必要はない。


岸野がククッと笑って、戸惑うナインたちに声を張り上げる。


「集中! 集中!」


このゲームが始まってから、一体、どれくらい経っているのだろう。


真上にあった太陽が、少しだけ西に傾き始めていた。


マスクを外して、健吾が言った。


「フォアボールでもいいんだ。満塁になってもいい。ただ、途中で諦めたりはするな。絶対に」


「おう」


「集中力を切らしたら、そこで終わりだぞ! 負けたくねえ」


ここまで鋭い目をした健吾を見たのは、久しぶりの事だった。


本当に懐かしい目を、健吾はしていた。


どこまでも真っ直ぐで、強くて、強烈で。


思いやりにあふれていて、おれの本能を揺さぶる目だ。


「勝ちたいだろ」


おれは、鈍痛に耐えながら頷いた。


「勝ちたい」


健吾の目を見て、しっかりと頷いた。


「野球は、ゲームセットになるまで諦めたらだめだ。な、響也。痛くても、苦しくても。一球の重さを噛み締めろ」


そう言って、健吾はおれのグローブにボールを押し込んで、踵を返した。


でも、2、3歩進んでぴたりと止まり、深呼吸をして健吾が振り向いた。


「響也」


夏の陽射しが、健吾を照り焦がす。


「勝つこと以外、何も考えるなよ」


「分かってる」


「耳を研ぎ澄ませろ。風を聞け。おれのミットだけを見ろ。がむしゃらに投げろ」


がむしゃらに……。


熱風が、見つめ合うおれと健吾のユニフォームの袖を、パタパタ揺らした。


「がむしゃらに投げて来い。フォアボールでもいいから。どんな球でも、全部、おれが止めてやる」


そう言ったあと、健吾は一言だけ添えて駆けて行った。


「バックスタンドに向かって、強い風が吹いてる」