おれは夢中になって、100球投げ込んだ。

おれの100球を受けた分の汗をスポーツタオルで拭いながら、健吾が然り気無く言った。

「響也は甘過ぎるんだよな」

「何が? ああ、インコースの事か? おれ、どうしても苦手なんだよなあ」

なんと情けない事に、おれは内角低めに1球を投じるのが苦手なサウスポーだった。

昔に比べればうまくはなっているが、やはり苦手なのだった。

「明日はインコース中心のメニュー頼む」

苦笑いをしながらおれが言うと、つられたように健吾も苦そうに笑った。

違う、と否定しながら。

「翠に、だよ。響也はあいつに甘過ぎるんだよ。だから付け上がるんだぞ」

「そうかな」

「そうだ。よくあんな訳の分かんない女、相手にできるよな」

おれには絶対無理だな、と言って健吾は疲れたような顔をしたけど、

「でも、悪いやつじゃないよな。元気で明るいし、裏表とか無さそうだしな」

とも言って、さっき翠がいたフェンスの向こうを見て笑った。

もうじき、このグラウンドの上空に、一番星がひょっこりと現れて、きらりと輝くだろう。

未知なる宇宙の片隅のだだっ広い大陸の切れ端。

このグラウンドの上空に。

大きく息を吸い込んで、おれはグローブに練習球を挟み込んだ。

健吾の広い背中をそのグローブで叩いて、バックネットを目指して駆け出した。

「行くぞ、健吾」

「あっ、待てよ」

と言いながら、健吾も俺の後を追い掛けてきた。

おれは後ろの健吾を振り返りながら走り、笑いながら切り出した。

「補欠エース」

「えー?」

「補欠エース。翠が勝手に言い出したんだ! センス悪いと思わないか?」

「ああ、思う! しかも、それ矛盾しまくりだよな」

「まあな! けど、最近はけっこう気に入ってたりするんだよな、おれ」

そう言って笑うと、有り得ねえ、と健吾は走るスピードを上げておれに追い付いた。

ホームベース付近で、マネージャーの花菜がピイッとホイッスルを鳴らした。

「集合ー!」