南4―3西工業



長かった。


ズバ抜けた才能も、飛び抜けたヒーローもいない。


桜花のようなブランドが付いている高校でもない。


一回戦敗退から始まった、このチーム。


最高の成績は、地区大会2回戦まで進んだこと。


弱い弱いと言われ続けてきた。


その南高校がノーシードから意地だけで這い上がり、横綱桜花との取っ組み合いのような激闘を乗り越え、今、ここに立っている。


勝ちたい。


勝てば、このメンバーで、もう少し長く野球ができる。


この一戦の勝利の果てに、甲子園が見える。


ここまで来て、行きたくないわけがない。


視線の先に、バットを持った右打者が現れた。


ボールを強く握り、歯を食い縛った。


カーン


おれが投じたカーブは、初球打ちしてきた打者によって、ファウルボールとなった。


ワンストライク。


肩に、激しい鈍痛が走った。


奥歯が粉々に砕けてしまいそうなほど、歯を食い縛った。


痛え。


もう、指の先まで感覚がおかしくなっていた。


それでもまた、ボールを握り込む。


勝ちたいからだ。


ボール。


鈍痛が一本の鋭い槍となって、左肩をぶっ刺した。


汗がどろどろになって、額から伝い落ちる。


くらくらする。


夏の強烈な陽射しが、目の前をもうろうとさせる。


もうろうとする視線の先に、健吾の2本の指が見えた。


ツーアウト。


ワンストライク、ワンボール。


鈍痛に、目の奥がぐるぐると回る。


低めの直球はふわりと浮いて、ストライクゾーンを大きく外れた。


ボール。


次に、スクリューボールを投げたはずだった。


しかし、その一球はワンバウンドして、ボールになってしまった。


ワンストライク、スリーボールになり、健吾がタイムをとってマウンドに駆けてきた。