「分かってるって。だから、言ってんだろうが」


「けど、4番だぞ。打たれたら終わりだ」


おれたちの夏、この県立球場で終わっちまうんだぞ。


「いいじゃねえか」


と岸野は笑い、グローブでおれの背中を叩いた。


「打たれたって、サヨナラになったって、いいじゃねえか」


「そうそう。そういうこったな」


そう言った健吾が続けた。


「響也が打たれてサヨナラになっても、誰も文句言わねえよ」


「そうだ。夏井でダメなら、しょうがねえやな」


大輝が豪快に笑った。


なんてやつらだと思った。


声が出せなかった。


今、一言でも口にしたら、おれはわんわん声を上げて大泣きしてしまうだろうから。


普通なら、満塁作でも真っ向勝負でも、何が何でも勝とうぜ、と気合いを入れるのが当たり前だと思う。


それなのに、サヨナラになってもいい。


だから、最後まで投げろと言ってくれるナインなんて、そうそう居ないと思う。


なおさら、もう、明らかに球威は落ちているし、ストライクもまともに決まらない状態に陥っているエースに。


おれは、奥歯をぎりりと噛んだ。


ナインに、頭を下げる。


「じゃあ、打たせるから、頼む」


初めてだった。


みんなに頭を下げて、援護を頼んだのは初めてだった。


「よーし! じゃあ、各自散れ!」


岸野が声を張り上げると、ナインはグローブでハイタッチし合い、おれのケツを叩いて散らばっていった。


ベンチを見ると、監督がうんと頷き、花菜が口をあんぐり開けてハラハラした様子でこっちを見つめていた。


健吾がミットを構える。


ワンアウト、2、3塁。


打者は、4番。