しかし、3塁走者はサードベース付近にとどまったままだ。


「ナイス! 村上!」


その声に反応して振り向くと、砂ぼこりの中から土まみれになった村上が、歯を食いしばって立ち上がった。


おれの頭上を通過した打球は、ダイビングキャッチしようとした村上のグローブに当たり、内野安打止まりになった。


もしも、村上がグローブで弾いてくれなかったら……そう思うとゾッとした。


あの打球なら、完全にセンター前ヒット級の当たりだ。


サヨナラになっていた。


アウトにはなからなかったものの、おれは村上の意地の強さに救われた。


ワンアウト、1、3塁。


しかし、ピンチの状況は変わらない。


異様な威圧感を放ちながら、西工業の次打者がネクストバッターサークルから歩いてくる。


4番打者。


1球目を投じた時、西工業は盗塁に成功。


ワンボール。


ワンアウト、2、3塁となった。


これは、まずい。


スクイズをされたら、最悪だ。


健吾がタイムをとって、ナインをマウンドに集めた。


汗みどろの、健吾。


「さて。大一番てとこだな」


うん、とナインたちが頷く。


「満塁作でいくか」


健吾の言葉に、おれは顔を上げた。


「ちょっと待て」


ワンアウトだぞ、そう言ったのは岸野だった。


4番打者を牽制するのは、確かにいい作戦なのかもしれない。


長打、適時打、犠打、何にしろ打たれてしまえばサヨナラだ。


でも、満塁にしてしまえば、1つのミスで終わりにもなる。


「どうせサヨナラになるなら、満塁作なんてせせこましい事はやめとこうや」


と岸野は笑った。


次第に、1人、2人……とナインたちが頷く。


「何言ってんのか分かってんのか? 岸野」


おれが言うと、岸野はあっけらかんとして笑った。