3球目。


ボールになったスライダーを救い上げ、打者は、ライトのポールすれすれのファウルボールにした。


納豆やモロヘイヤのように、粘っこい打者だ。


こういう打者が、1番嫌だ。


4球目、ファウルボール。


5球目、ファウルボール。


ただでさえ灼熱の陽射しと午後の熱をはらんだ風が、体力を奪っていくこの中で。


打者は、意地を超えた粘りで食らい付いてくる。


これが、最終回の集中力だ。


6球目、またしてもファウルボール。


気付けば、すでにファウルボールは9球を超えていた。


肩がこたえる。


息が上がる。


腕にどろりとした汗が滲む。


ツーストライク、ノーボールで有利に立っていたのに、その直後、おれは連続スリーボールを出してしまった。


体がカタカタ震えた。


寒いわけじゃない。


むしろ、暑くて干からびそうなくらいなのだ。


肩に、今まで感じた事のない鈍痛が走っていた。


呼吸が続かないほど、肩の鈍痛は体中に広がり蝕み始めていた。


ワンアウト。


ツーストライク。


スリーボール。


ランナーは、3塁からホームを狙っている。


サヨナラのランナーだ。


こいつが還れば、おれたちの夏が、今日終わる。


カン


甘い甘い、砂糖菓子のような直球だった。


その打球はおれの頭上すれすれに越えて行った。


グローブを伸ばせば確実に届く距離だったのに、左腕が高く上がらないのだ。


もう、ここまでか。