「これが、野球だろうが」


気にするな、とおれは健吾の肩をポンと叩いた。


最高のプレーをする事だけが、良い野球じゃない。


最低のミスがあるから、野球だろ。


そのミスを仲間で埋めるのが、南高の野球じゃないか。


全員でカバーし合って助け合うのが、全員野球だ。


陰っていた健吾の目の色が、がらりと一変した。


おれと健吾は言葉を交わす代わりに、グローブとミットでハイタッチした。


「健吾! ドンマイ」


「気にすんな」


岸野がイガが、村上が、遠藤も。


内野陣が次々に労いの言葉を、健吾にかける。


今のミスを責めるようなやつは、1人もいない。


健吾のミスを責めるようなことはしない。


例え、この切羽詰まった状況だとしても。


たった一回のミスが、何だっていうんだ。


それなら、おれは、こいつらにどれくらい迷惑をかけてきた来たか分からない。


次打者が、バッターボックスに入った。


ボールを握り込む。


健吾のサインを見つめて、しっかりと頷いた。


低めの直球。


ストライク。


2球目。


ボールが転がる。


サードゴロ。


しかし、その打球はイレギュラーした。


ショートバウンドになった打球をうまく救い上げ、イガが3塁走者を気にしながら、ファーストに送球した。


ワンアウト。


3塁走者は、とどまったままだ。


ワンアウト、3塁。


視線の先に、バットを構える打者が見えた。


1球目、バックネットに当たり、ファウルボール。


ワンストライク。


2球目。


サード側ファウルグラウンドに、打球が転がる。


ツーストライク。


追い込んだ。


ボールを強く握り込んで、セットポジションに入る。