感情を表に出さないのは得意な方だ。


だから、顔には出ていなかったと思う。


でも、おれは尋常ではないほど動揺し、焦っていた。


この土壇場で同点のランナーを出してしまった。


一本。


たった一本の長打、犠打、たった1回の凡ミス。


それが命取りになるのが、最終回だ。


実力以上のファインプレーがポロリと飛び出すのもまた、最終回だ。


次打者がバッターボックスに入った。


打者の鋭い視線から逃れるように、空を見上げた。


県立球場の上空を優雅に流れていた雲が、いつの間にかなくなり、水色一色になっていた。


濃い、夏の空色。


視線の基軸を、健吾に戻す。


要求されたのは、左打者に対しての外角ぎりぎりに落ちる、スライダー。


うん。


頷いて、セットポジションに入った。


火照った頬を、大粒の汗がつるりと伝い落ちた。


「ストラーイク!」


主審が声を張り上げる。


左打者が空振りをした瞬間、健吾が3塁に送球した。


ギャアアア、と歓声のなのか悲鳴なのか区別がつかないほどの咆哮がわき上がる。


健吾は青ざめた顔で、ホームベース上に立ち尽くしていた。


2塁走者の盗塁を刺そうとした健吾の送球は大きく反れて、暴投。


3塁に構えていたイガが慌ててボールを追いかける。


しかし、カバーに入っていた大輝のおかげで、走者は3塁にとどまった。


ノーアウト、3塁。


「健吾!」


おれは、呆然と立ち尽くす健吾に駆け寄った。


「ぼけっとすんな」


肩を叩いて笑うと、健吾は唇を噛んで肩をすくめた。


「ごめん。響也」


「なにが?」


「だって、おれ……」


健吾が言おうとしている事なら、その歪んだ悲痛な表情を見れば痛いほど分かった。


だから、最後まで聞く気はない。