掴みかけたはずの勝利が、たった一球で指の隙間からこぼれ落ちてしまう。


こぼれ落ちかけていた勝利が、たった一打で両手のひらにしっくりとおさまったりする。



100 020 010
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
000 030 00
西工業



青い空をトンビが2羽、平行線を描きながら飛んでいく。


大きな翼を悠々自適にあやつりながら。


迎えた最終回の裏。


アナウンスが、西工業の代打を告げた。


ダッグアウトからバットを持った打者が現れた。


バッターボックスの横で2、3回、素振りを繰り返した。


最終回に送り込まれてくる代打は、驚異的な集中力を持っている。


最終回は、集中力をと切らせてしまった方が負ける。


それは重々理解していたはずなのに、おれの腕は言う事をきいてくれなかった。


初球、ボール。


抑えがきかない。


3塁側応援スタンドから、大音響が地響きとなって渦を巻いた。


右打者に対しての、スクリューボール。


しかし、その一球が高めに浮いた。


回転もない。


あえて、冷静になって振り向いた。


打球が、左中間の深みに長打となって転がった。


ツーベースヒット。


ノーアウト、2塁。


県立球場は、ものものしい声援にぐらぐらと揺れた。


歯を食い縛る。


肩が上がらない。


なんでだ。


この回を抑えれば、あれほど夢にまでみた甲子園行きの切符を手にすることができるのに。


手を伸ばせば掴むことができる位置まで、ようやく上り詰めることができたのに。


なんで、この大一番で、おれの左腕はいうことをきかないんだ。