メッタ打ちに合う方が、まだマシだ。


マウンドを下ろされるより、メッタ打ちに合って苦しむ方が楽だ。


それくらい、プライドが高い野手だ。


それなのに、自らマウンドを下りたあのエースは、今、プライドの欠片さえ砕かれているに違いない。


修復不可能なほど、プライドをズタズタにされているのだろう。


肩が痛いくらい、何だ。


5試合連続で投げ続けて疲れました、なんて、腑抜けなことは言ってらんねえよ。


おれは、ボールを強く握り込んだ。


集中だ。


2番打者を三振に打ち取り、次打者をセカンドゴロに打ち取った。


吐き気がするほど、自分でも驚いたほど、おれは集中していた。


ついに、最終回が回ってきた。


応援スタンドの熱気が最高潮に達しようとしていた。




100 002 01
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
000 310 00
西工業



9回、表の攻撃。


先頭打者は、8番、昌樹。


西工業のリリーフ投手もようやくリズムに乗ったのか、球威が上昇していた。


何よりも、切れ具合が凄まじくレベルアップしていた。


一球目、ストライク。


二球目も、ストライク。


そして、三球目。


ベース手前にきてガクリと落ちた変化球を、昌樹がフルスイングして、三球三振。


ワンアウト。


バッターボックスに入ったおれは、その一球に手を出すこともできなかった。


まるで、ケンカを吹っ掛けて来るような、鋭い球威だった。


見逃し三振、アウト。


ツーアウト。


続いたイガも一球だけファウルボールにしてたものの、三振、アウト。


この回、西工業のリリーフ投手が投げた球数は、計10球。


あっと息をつく間もないほどの速さで、その回はチェンジを迎えた。


これが、決勝戦の気迫なのか。


野球の恐ろしさは、底なし沼だ。