こんなおれを信じて連続登板させてくれた事への、感謝の気持ちだった。


ズバ抜けてスピードがあるわけではない。


コントロールが特別いいわけでもない。


メッタ打ちには合うし、仲間に助けてもらうしかないおれを、監督はマウンドに送り続けてきてくれた。


それが、嬉しかった。


夏井と心中すると言って貰えたことが、おれは何よりも嬉しかったのだ。


夏の大会をおれの左肩にかけてくれた。


監督に感謝する。


先頭打者を三振に打ち捕った直後、岸野がマウンドに駆けてきた。


「夏井」


振り向くと、岸野が急ぐように早口で告げた事は、なぜだか、おれに不思議な力をくれたのだった。


「お前より苦しんでるエースが、3塁ベンチにいる」


マウンドに立てるお前は幸せだぜ、と岸野は笑顔で守備位置へ戻って行った。


岸野の言葉が猛烈に気にかかり、おれは3塁の西工業のベンチに視線を飛ばした。


ナインたちはベンチギリギリに立って、打者に声援を送っているのに。


1人だけ、試合から目を反らすかのようにベンチに深く沈み、うつ向いているやつがいた。


帽子を深く被り、うつ向き、歯を食い縛りながら右手を左手で支えていた。


西工業のエースだ。


ハッとした。


西工業のエースは、右手に包帯を巻いていた。


あいつ、怪我してたのか?


包帯を巻くくらいの怪我をしながら、マウンドに立っていたのか?


今、どれくらい悔しい気持ちを抱えて、そこに座っているのだろうか。


はっきり言って、ピッチャーってのはプライドの塊でできている生き物だ。


ふてぶてしくて、貪欲で。


マウンドを下ろされるのが、何よりもの屈辱なのだ。