ボールはレフトから、カットに入った遊撃手へ。


その間に、岸野は3塁ベースを蹴り、真っ直ぐホームへ向かってくる。


遊撃手から、カットに入った三塁手へボールが渡った時、すでに岸野はホームベースを駆け抜けていた。


シーソーゲームを先に抜け出したのは、南高校だった。


追加点、1。


しかも、まだ、ワンアウト。


しかし、続いた勇気が内野安打で出塁したものの、大輝、遠藤が内野ゴロとフライに打ち捕られ、チェンジ。




100 020 01
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
000 300 0
西工業


残されたイニングは、あと、2。


どうにか、この1点差だけは守り切りたい。


1点の重さを、怖さを、凄さを知っているからこそ、なんとしてでも守り抜きたい。


ダッグアウトを出て守備に向かおうとしたおれを、監督が呼び止めた。


「夏井」


「はい」


振り向くと、監督が無精髭をさすりながら訊いてきた。


「まだ、いけるか?」


痛む肩を押さえて、おれは頷いた。


「いけます」


「無理をするな。指まで震えてるじゃないか」


「はい」


無表情で答えた。


こんな事、今に始まった事じゃない。


初回を終えてから、ずっと痛みっぱなしだ。


「痛いっす。でも、いけます」


おれが言うと、監督は頭を下げた。


「すまない」


監督はその先を決して口にはしなかった。


けれど、なんとなく、監督が言いたいことがおれには分かった。


5試合連続の先発。


そして、完投。


無茶をさせて、すまない。


監督はそう言いたいんだと、なんとなく理解できた。


「ありがとうございます」


そう言って、おれはマウンドに駆け出した。


ありがとうございます、は心配してくれてのありがとうじゃない。