そのピンチを救ってくれたのは、岸野だった。


4番は送りバントをしてきた。


サードラインに強い当たりで転がったボールをイガが取り、3塁へ送球。


カバーに入っていた岸野がすかさずセカンドへ送り、ホースプレー。


ダブルアウト。


岸野のジャンピングスローは、味方のおれでさえ魅了された。


ツーアウト、1塁。


迎えた打者は、5番。


放たれた打球は大きく膨らむアーチを描き、深い守備位置に構えていた勇気のグローブに吸い込まれた。


スリーアウト、チェンジ。


走者を出しながらも、7回裏を無得点にしのいだ。


シーソーゲームになりつつあった終盤が、ついに動いた。


8回、表。


南高校の攻撃。


引き続き、打者は岸野からの快打線。


岸野は初球から打って行った。


二遊間を抜ける、強い打球。


レフト寄りの、センター前ヒット。


続いたのは、今日まだ1本もヒットのない4番、健吾。


1球目を、健吾はフルスイングした。


バットが空を切る。


ブン。


あの体格から降り下ろされるバットは、凄まじくおぞましい音を出した。


ストライク。


2塁へスライディングで突っ込み、岸野が盗塁成功。


ベンチには高揚感一色に包まれていた。


その時、ついに健吾のバットが牙を剥いた。


カアン。


高揚感に包まれていたベンチが一気に静寂し、全員が息を詰めた。


あれだ。


あれが、健吾の本来の姿だ。


健吾の一打だ。


低めに落ちた一球をバットの芯ですくい上げ、健吾はバットを振り切った。


打球は空高く上り、虹のように鮮烈な弧を描き、伸びて伸びて、レフトのポールすれすれを伸びていった。


飛び出した岸野が、セカンドベースに戻る。


その打球を極限の深い位置でレフトが捕ったのを確認して、岸野がベースを蹴った。


犠打。