病衣を着ていて、白い毛布にくるまれていて、点滴もしていたりして。


顔色なんて全然よくないし、でも、きれいなプリンセスだ。


ライトの奥のフェンスは低くて、だいたい同じ目線で話すことができた。


「夏井、ごめんな。大事なときに。けど、翠ちゃんがどうしても渡す物があるって」


そう言って、相澤先輩は翠を抱き抱えながら、フェンスに歩いてきた。


「4時間だけ、外出の許可が出たんだ」


「何で? 翠、昨日やっと目が覚めたばっかで」


おれが訊くと、相澤先輩がククッと笑った。


「正確に言うと、無理やり。翠ちゃんの母さんが、先生を黙らせたっていうか」


大騒動だったよ、と相澤先輩は少し疲れたような顔をした。


少し、納得できる。


あの、さえちゃんだ。


有り得ないことはない。


「そうですか」


翠は何も言わずにきれいな目をして、おれをじーっと見つめていた。


血色の悪い顔。


でも、きれいな色の唇。


まばたきをするたびにフサフサ揺れる、長い睫毛。


まったく。


むちゃくちゃする、フランス人形だ。


「翠、来てくれてありがとう」


翠はにっこり笑って、こくりと頷いた。


「翠ちゃん。夏井に渡す物があるんだろ」


そう言って、相澤先輩は翠を抱きかかえたまま、同じ目線になれるようにしゃがんでくれた。


「先輩」


翠が声をかけると、相澤先輩は翠の体を右手で抱えたまま、毛布の中に左手をつっこんだ。


「どこにあるの?」


「首から外して」


「分かった」


翠の首にかかっていた白い紐を掴んで、相澤先輩がそれを取り外し、翠の右手に握らせた。


「自分で渡したほうが、効き目あるよ」


「うん」


翠は相澤先輩ににっこり微笑んだあと、こくりと頷いておれを見つめた。


「補欠」