おれは息を止めて、その瞬間に酔っ払った。


頭がくらくらした。


まばたきをしている余裕すらなかった。


地割れが起きそうなほどの歓声が、県立球場を揺らす。


晴天の下、決勝、5回表。


そこで、おれは鮮やかな一打を見た。


ボールが不気味な発光体のように、青空に見事なアーチを描いたのだ。


生きてる。


そう思った。


球体に生命が宿っているのを、見た。


その一打は大きなアーチを描きながら、伸びる。


風に乗り、発光体はバックスタンドに突き刺さった。


勇気は右手を高々と突き上げ、1塁、2塁、3塁、とベースをしっかりと蹴り、ホームを駆け抜け生還した。


2ランホームラン。


「勇気!」


おれが左手を突き出すと、勇気は「どんなもんだー!」とおれの左手にハイタッチした。


西工業のエースが、マウンド上で呆然と立ち尽くしていた。


西工業
000 30
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
100 02
西工業



中盤になって試合を振り出しに戻したのは、1つ年下の勇気だった。


5イニングが終わって、西工業3―3南。


決勝という名にふさわしい、大接戦だ。


両チームが一気にはけて、グラウンド整備隊が飛び出していく。


灼熱と化したグラウンドを、スプリンクラーの水が冷やしていく。


ダッグアウトで6回表が始まるのを待っていると、ベンチ前で素振りしていたイガと勇気が、キャッチボールをしていた大輝と岸野が、肩を休めていたおれを呼びに来た。


「夏井!」


「おら、夏井! てめえは何やっとんじゃ」


「外に出てこい」