3塁ライナーが、ホームに向かって走り出した。


ああ、また追加点か。


「大輝、バックホーム!」


その声にハッとした。


イガが枯れた声を張り上げた。


「ノーカット! バックホーム! 大輝!」


レフトの大輝が、前進守備をとっていたのだ。

大輝はゴロを素早くさばき、豪速球のような好返球を健吾に送った。


その返球はホームベース手前でショートバウンドし、健吾のミットに入った。


スライディングしてきた走者を健吾が体で食い止め、タッチアウト。





100 0
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
000 03
西工業



5回の表。


打者は3番、岸野。


初球から、岸野が打っていった。


打球はレフトの浅瀬に落ち、ポテンヒット。


ノーアウト、1塁。


次打者は4番、健吾。


しかし、三振。


ワンアウト、1塁。


監督が次打者勇気に出した指示は、確実な送りバントだった。


でも、バッターボックスに立った勇気は首を振り、もうベンチを見ることをしなかった。


「あのバカ」


勇気の態度に、大輝が昌樹がチッと舌打ちをした。


でも、監督は涼しい顔をして腕を組んだ。


「いい。好きにさせてやれ」


一球目、それを勇気は冷静に見逃して、うん、と頷いた。


ストライク。


二球目も、見逃してストライク。


おれは気が気じゃなかった。


何やってんだ。


アホか。


見逃し三振になるぞ。


そう思った矢先だった。


三球目。


ついに勇気のバットが回った。


背筋がぞくぞくした。


勇気の目力に、ぞくぞくした。


あのスイングだ。


勇気のフルスイングはその一球を完全に捕らえ、カンと垂直に弾き返した。


「キャアアアッ」


スコアブックに向かっていた花菜が、豹変した。


ペンを投げ出し、飛び上がり、気が狂ったようにジャンプしている。