その時、待ちくたびれてしまったのか、健吾がプロテクターをガシャガシャ鳴らしながら、おれ達の元へ駆け寄って来た。

到着するや否や、健吾は翠を睨み付けた。

「翠! また響也に無理難題押し付ける気か? やめろよ、部活の邪魔するなよ」

帰れ帰れ、邪魔だ、と健吾は言った。

翠は、まるでメデュウサのように冷ややかに目を細めて、斜め下から健吾をぎろりと睨み上げた。

そして、その華奢な細い足で健吾の弁慶の泣き所を目掛けて、フェンスをガッシャーンと蹴っ飛ばした。

「うっさいわ! 健吾には用事無いし! その石頭にバットぶつけてくたばれー!」

翠が怒鳴り、べえっと舌を突き出すと、いよいよ健吾も火山噴火寸前だ。

くああっ、と声にならない感情を喉の奥で出し、太陽に焼けた顔を真っ赤に沸騰させながら健吾は頭を抱えた。

「ちっきしょう! この生意気女どうにかならねえかなあ」

そんな事を真面目な顔で真剣に言う健吾を、おれは小さく笑い続けた。

だって、どうにもならないのだ。

おれも健吾も、翠には勝てない。

「健吾、今日も見事な惨敗だなあ」

「ちくしょう」

「んで、翠の一生のお願いって?」

じだんだしている健吾をひとまず放置して訊くと、翠は少し駆け足の口調で言った。

「明日、球技大会じゃん? だから、明日は1日中あたしと一緒に行動するべきだと思うわけよ」

「はあ……誰が?」

「決まってるでしょ! あんたよ、補欠」

そう言って、翠はおれを指差した。

確かに、明日は球技大会だ。

授業は一切ない。

朝から夕方まで、この校舎の体育館とこのグラウンドを使って、全校生徒で様々なボールの頂点を奪い合う。

バスケットボール、サッカー、バレーボール、野球。

これらの4種目が用意されている。

男子も女子も混同で、1年生から3年生までのクラス対抗トーナメント戦だ。

1年生であるおれ達は初めてだが、残暑見舞いの南高校の恒例行事だ。

それにしても、意外や意外、想定外を超えた一生のお願いだ。

明日1日、翠と一緒に行動しなければいけないとは。