「この5試合をたった1人で投げ抜いたエースを、助けたいからだ」


それを分かって、おお前はマウンドに立っているのか。


そう言って、監督はもう一度、おれの頭をメガホンで叩いた。


ぜんぜん痛くない、優しい力で。


ペコン、と間抜けな音がした。


「1点でも多く点数をとって、お前を楽にしてやりたいからだ」


その時、イガがレフト前にヒットを放った。


打球は低く弧を描き、グラウンドを転がった。


イガが1塁ベースを回って、右手を突き上げた。


ツーアウト、1塁。


次打者、村上が放った打球はショートのグローブで弾かれ、でも、2塁ホースアウト。


チェンジ。


点数はとれなかったけれど、おれは晴れ晴れとした気持ちになっていた。


1、2回とはまるで違う事に気付いた。


相変わらず肩はぱんぱんに張っていて、痛い。


でも、体が軽い。


みんながおれを助けようとしてくれているのなら、おれもそれに答えなければいけないのだ。


みんなのために。


翠のためにも。


3回表、気力で投げきり、走者を出したものの無得点におさえた。


3回裏、南高校も三者凡退に終わり、ゲームは白熱度を増した。


しかし、4回裏。


ついにゲームに動きが出た。


肩の痛みうんぬんよりも、梅雨明けした夏の陽射しと苦しいほどの熱風が、体力を惜しみ無く奪っていこうとする。


どんなに水分補給をしても、滝の汗となって体外へ出て行った。


おれの集中力に、異変が起きた。


暑さで歪む視線の先に、バットをかまえる西工業の3番打者が現れる。


左打者。


灼熱の陽射しと大歓声が、前から両サイドからぐいぐい押し寄せてくる。


健吾からのサインに頷き、おれはボールを強く握り直した。