「おれとイガの後ろには、大輝がいるし。勇気、昌樹、頼れる外野手がいる」


どんな送球も意地で捕るファーストの遠藤と、頭のキレる二塁手の村上も。


と、岸野が早口で言った。


「なあに。打たれたって、どうってことねえよ。おれたちがその分取り返してやっからさ」


まだ序盤じゃねえか、そう言って、イガはおれの胸をグローブでドンと小突き、守備位置へ戻って行った。


岸野は何も言わずにニヤリと笑って、ショートへ戻って行く。


「踏ん張るぞ、補欠エース」


そう言って、健吾はおれの頭に帽子を載せて、戻って行った。


「うるせえよ」


おれは後ろを振り向くことができなかった。


「補欠じゃねえよ」


帽子のつばをぎゅっと掴んで、ぐっと深く被った。


泣きそうだったからだ。


野手がいるから、投手は思いきって一球を投げることができる。


野手があってこそ、野球なのだ。


おれが投じた外角低めに流れるスライダーは、サードゴロになり、3塁でホースプレー。


ツーアウト。


続く打球はショートに強く転がり、サードベースに居たイガに送られ、スリーアウト、チェンジ。


序盤のピンチを救ってくれたのは、頼れる三塁手と遊撃手だった。


2回、裏の攻撃。


8番打者の昌樹がレフトフライに打ち捕られ、9番のおれは三振。


おずおずとベンチに戻るや否や、監督に呼ばれた。


「夏井」


監督は打者のイガに打てのサインを出しながら、おれに言った。


「なんで、みんなが必死なのか、分かるか?」


「優勝して、甲子園に行きたいから……かな」


肩の痛みに耐えながらぼんやり答えると、監督は「このボケ」と言って、メガホンでポコッとおれの頭を叩いた。


「あたっ」


「助けたいからだ」

「えっ」