尋常ではないほど、大量の油汗が吹き出してくる。


状況は悪化していく一方通行だった。


どうやっても、あがいてみても、回り道すら見つからない。


ワンアウトで連続2者フォアボールを出してしまった。


ランナー、1、2塁。


投球は乱れ、ストライクが決まらない。


そこでタイムをとって、マウンドに駆けてきたのは健吾だった。


健吾は、おれの汗みどろの顔を見て、ぐっと唇を噛んだ。


「くそ……」


そう言って、健吾はおれの帽子を剥ぎ取り、自分のアンダーシャツの袖で、おれの顔をぐいぐいとこすった。


「今日まで1人で投げ抜いてきたんだもんな。おかしくならないほうが、おかしいよなあ」


嬉しかった。


何も言っていないのに、おれの異変に気付いている健吾の存在が、嬉しかった。


「そんなに痛えのか?」


おれは苦笑いして、浅く頷いた。


そこに駆けてきたのは、岸野だった。


「どうした?」


おれの状況を手短に健吾が説明すると、岸野は真っ直ぐな瞳をしてイガを呼んだ。


「いいか、夏井」


朦朧とする中、おれは岸野を見つめ返した。


「西工業は左打者か多い。できるだけアウトぎりぎりに投げろ」


「え?」


「流させて、打球をおれとイガに集めろ。死ぬ気でアウトにしてやる」


な、イガ、と岸野が背番号5の背中をグローブで叩いた。


「おう。今日まで踏ん張ってきた響也のこと、今度はおれたちが守る番だ」


そう言って、イガは得意気にグローブを叩いた。