その一球は浮いて、身をねじってよけたイガのヘルメットに直撃した。


ヘルメットはイガの頭から外れ、土の上に転がった。


場内は不穏な空気に包まれた。


イガが起き上がらないのだ。


小さくうずくまったまま、動かない。


たまらず、息を呑んだ。


「タイム!」


主審が声をかけ、ゲームを中断させた。


大丈夫かと、うずくまったイガに声をかけている様子だった。


騒然とするグラウンドにゴールドスプレーを持った健吾と、岸野が飛び出して行った。


「イガが怪我しちゃってたら、サードは?」


花菜が祈るような面持ちで、グラウンドをじっと見つめていた。


イガの代わりなら、ちゃんとベンチに控えている。


でも、イガほど駿足で強肩で、すばしっこくライナーに飛び付けるやつはいない。


「小野。準備しておきなさい」


監督が声をかけると、ベンチ入りしていた2年の小野が、緊張した声で「はい」と立ち上がった。


その時だった。


「オッケー! 大丈夫!」


グラウンドから、岸野の明るい声が返ってきた。


見ると、イガは立ち上がり、ヘルメットをかぶり直していた。


健吾が両手で大きな円をつくり、大丈夫だとジェスチャーしながら、岸野と2人ベンチに戻ってきた。


試合が再開された。


監督はよしよしと安堵した顔をして、次打者の村上にサインを出した。


デッドボールを受けたイガはベンチに向かってガッツポーズをしながら、1塁ベースを回った。


「イガのやつ、笑ってやがる。心配させやがって」


大輝が言うと、みんなが頷いた。


その時、健吾がおれに耳打ちをしてきた。


「目がさめたんだとさ」