『今、ちょっと寄ってくとこができて。だから、応援行くの少し遅れる』


そんなこと、わざわざ電話してこなくてもいいのに。


「分かりました」


『だから、おれが行くまで絶対負けんじゃねえぞ! 5回までにはそっちに行くから』


「相澤先輩?」


『おれが行くまで、西工業に点数やるんじゃねえぞ! 死ぬ気で投げろ』


それだけ言って、相澤先輩は一方的に電話を切った。


「なんだ……?」


訳もわからす呆然とするおれの背中を、岸野が叩いた。


「時間だ」


「うん。花菜」


携帯電話を花菜に返して、おれはベンチ前に整列した。


死ぬ気で投げろ、か。


そんなこと、言われなくても分かってる。


「集合!」


主審がホームベースの正面に立ち、声を張り上げた。


1塁側からは西工業、3塁側からは南高校が、全速力で集合した。


13:00


灼熱と化した地に、アナウンスが流れる。


「只今より、先攻、県立南高等学校、対」


おれは息を呑んだ。


「後攻、県立西工業高等学校の、決勝戦を開始致します」


「お願いします!」


場内に響いたサイレンは、まるで魔物の遠吠えのようにけたたましかった。


わああっ、とわいた場内の歓声の下、西工業ナインはグラウンドに散らばり、南高校ナインは先頭打者イガを残して、ベンチへ下がった。


西工業のエースは、右腕のコントロール投手だ。


スピードは決して速いとは言い切れないが、際どいコースを突く投球をしてくる。


バッターボックスの横に立ち、イガがフルスイングした。


監督からのサインは、またしても、塁に出ろ。


「プレイ!」


西工業のエースが一球目を投じた瞬間に、ああっと花菜が声を漏らした。


野球は、いつ何が起こっても不思議ではない。


けれど、初球から思わぬアクシデントが起こった。