バックスタンドの電光掲示板。
両高校の校旗が掲げられ、熱をはらんだ風にパタパタとはためいている。
第90回線
全国高校野球選手権大会
県大会 決勝
13:00 試合開始
もう、どれくらい野球をしてきたのか、どれくらいボールをこの手から放ってきたのか。
考えると、気が遠くなりそうだ。
52校出場した今大会。
すでに50校はやぶれ、今、2校だけが県立球場の土を踏んでいる。
南
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
西工業
白球を握らなかった日は、ない。
圧勝したことも、惨敗したことも、接戦にくじけそうになったこともある。
三者連続三振に押さえたこともあるし、メッタ打ちされコールドゲームに崩れた日もあった。
野球の怖さに潰されそうになったこともあったし、逆に野球のおもしろさに翻弄されたこともあった。
泣いた、笑った。
笑って、泣いた。
惨めさに、左腕をもぎとりたくもなった。
でも、どんなことがあっても白球を握らなかった日は、なかった。
「おい、響也」
健吾が、おれの肩を抱いた。
「おれ、お前と野球やってきた事、今日ほど有難いと思ったことないぜ」
「おれも」
それ以上、おれたちは何も交わそうとせず、ただその瞬間を待った。
試合開始の瞬間を。
「響也!」
もう試合開始直前だってのに、花菜がキンキン声を上げて、おれに携帯電話を差し出してきた。
「出て」
「誰?」
「お兄ちゃんから」
相澤先輩?
集中力を切らさないように、おれは携帯電話を左耳に当てた。
走っているのだろうか。
ハアハアハアハア、切れる息づかいが聞こえてきた。
「相澤先輩」
おれが言うと、すぐに返事が返ってきた。
『夏井か?』
「おす」
両高校の校旗が掲げられ、熱をはらんだ風にパタパタとはためいている。
第90回線
全国高校野球選手権大会
県大会 決勝
13:00 試合開始
もう、どれくらい野球をしてきたのか、どれくらいボールをこの手から放ってきたのか。
考えると、気が遠くなりそうだ。
52校出場した今大会。
すでに50校はやぶれ、今、2校だけが県立球場の土を踏んでいる。
南
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
西工業
白球を握らなかった日は、ない。
圧勝したことも、惨敗したことも、接戦にくじけそうになったこともある。
三者連続三振に押さえたこともあるし、メッタ打ちされコールドゲームに崩れた日もあった。
野球の怖さに潰されそうになったこともあったし、逆に野球のおもしろさに翻弄されたこともあった。
泣いた、笑った。
笑って、泣いた。
惨めさに、左腕をもぎとりたくもなった。
でも、どんなことがあっても白球を握らなかった日は、なかった。
「おい、響也」
健吾が、おれの肩を抱いた。
「おれ、お前と野球やってきた事、今日ほど有難いと思ったことないぜ」
「おれも」
それ以上、おれたちは何も交わそうとせず、ただその瞬間を待った。
試合開始の瞬間を。
「響也!」
もう試合開始直前だってのに、花菜がキンキン声を上げて、おれに携帯電話を差し出してきた。
「出て」
「誰?」
「お兄ちゃんから」
相澤先輩?
集中力を切らさないように、おれは携帯電話を左耳に当てた。
走っているのだろうか。
ハアハアハアハア、切れる息づかいが聞こえてきた。
「相澤先輩」
おれが言うと、すぐに返事が返ってきた。
『夏井か?』
「おす」