夏が本格的に始まったと実感したのは、朝目覚めた時だった。


「起床ーっ!」


花菜のキンキン声は、どんなところでもよく通る。


「あー! すっげえ寝た」


ぐああと大あくびをしながら、岸野がテレビのリモコンのスイッチを入れた。


大部屋の窓は全て開け放たれていて、早朝の新鮮な空気が入ってくる。


「おい! みんな、見ろよ」


岸野が楽しそうに、テレビを指差した。


おれも布団から体をお越し、まだ寝惚けている健吾と勇気を転がして、テレビの画面を見つめた。


『東北地方も梅雨明けになったと、気象台より発表になりましたね』


地元ローカル放送のキャスターが、爽やかにそう言った。


わあっと盛り上がり、ナインが窓辺から身を乗り出した。


無限大の青空が広がっていて、白く清潔な雲が浮かんでいる。


近くの街路樹からは、すでに蝉時雨がながれていた。


ついに、梅雨が明けた。


「決勝の日に梅雨明けかよ」


「なんか、ツイかも」


「つうか、絶対暑くなるよな」


次々に、声が飛び交う。


朝飯を食って大部屋に戻り、おれたちは旅館を後にする支度を始めた。


私物をバッグにしまい、布団をおこし、大部屋の掃除を全員でした。


これは、南高校野球部代々から続いていることだ。


世話になった部屋はきれいにしてから、去ること。


礼儀は忘れないこと。


感謝の心を持つこと。


そして、9時半になり、各自ユニフォームに着替えはじめた。


みんなの様子が、これまでとは違うことに気付いた。