すでに寝息が聞こえる。


おやすみ3秒かよ、とおれは布団の中でこっそり笑った。


それくらい、みんなは疲れているのだ。


明日はついに決勝だってのに、おれはさほど緊張していなかった。


むしろ、穏やか過ぎた。


霧たちのぼる秋の夕暮れの海のように、心は穏やかに凪いでいた。


次第にまぶたが重くなり、体が布団に沈み始めた時、違和感を感じた。


とろとろとした微睡みから、ハッと我に返った。


「お前、誰だ」


暗闇の中、目を凝らしてみると真横に大きな目があって、ギンギンとした瞳がおれを見つめていた。


「夏井せんぱーい……」


ギャー、と大声を出しそうになった。


右横からもぞもぞとおれの布団に侵入してきたのは、後輩の勇気だった。


「バカ。入ってくんなよ」


両手ででかい体を押し出すと、勇気はめげることなくさらに侵入してきた。


「助けてください。緊張して寝れないっす」


「わ、分かった。分かったから、そんなに顔近付けんなよ。暑苦しいって」


たたでさえ真夏の熱帯夜で苦しいってのに。


おれは寝返りを打って、勇気に背中を向けた。


「夏井せんぱーい」


情けない声を出して俺の体を這いつくばり、移動し、勇気はまた顔を近付けてきた。


「明日、打てなかったらどうしよう……フライ落としたら……どうしよう」


「勇気なら大丈夫だって。落ち着いてやれば、大丈夫だろ」


「でも、寝れないっす」


「勇気」


さすがに少し大きな声を出してしまった。


その時、左隣に寝ていた健吾が寝惚け声でうるせえぞ、と苦情を漏らした。


「健吾、何とかしてくれよ」


おれだって、困っているのだ。


「ああ?」


「勇気、緊張して寝れねえんだとさ」