「翠ちゃんのこと。大変だったね」


「ああ」


確かに、と言いたいところだけれど、おれは笑って首を振った。


「けど、翠は強い女だから。と言うか、不死身なんすよ」


おれと涼子さんは目を合わせて、同時に吹き出した。


中庭から館内に戻り、大部屋に向かいながら涼子さんが言った。


「卒業式の日だったんだけど。式もホームルームも終わって帰ろうとしていたら、私のとこに翠ちゃんが来たの」


「翠が?」


おれはびっくりして、階段の手前で不意に立ち止まった。


「うん」


涼子さんが振り向きながら笑った。


「びっくりしちゃった。だって、大きな花束を抱えて、私のこと睨んでたんだもの」


2年前の卒業式、そんな出来事があったなんて、おれは何も知らずにいた。


涼子さんは階段を1段上り、おれの方を向いたまま腰に手を当ててふん反り返った。


「あたし、あんたのこと、超大っ嫌い!」


と涼子さんは言い、とてつもなく可笑しそうに、懐かしそうにフフフッと笑った。


おれもつられて笑ってしまったのは、それが翠の真似なんだと分かったからだ。


―これでライバルいなくなるし―


―卒業してくれて、清々するし!―


「そう言ってね、翠ちゃん、泣きながら私に花束くれたんだよ」


こーんな大きな花束、そう言って、涼子さんは両腕でその大きさを表した。


「嫌いな先輩がいなくなってハッピースクールライフが始まるってのに、なんで寂しいのかな、って」


そう言って、翠は涼子さんに抱きついたらしかった。


翠らしいや。


そう思うと、つい笑ってしまった。


ありったけの強がりを思う存分言いなはったあと、必ず、本音をポロリとこぼすあたりが、翠らしいと思った。