ガラス張りの方に向きを変えて突っ立っていると、背中に小さな両手の感触があった。


「すごいなあ」


涼子さんが、しみじみと言った。


「本当にエースになったんだね」


そう言ったあと、涼子さんは、たぶん人差し指でおれの背中に「1」と書いた。


「南高のエースなんだよね」


「くすぐったいっす」


小さく笑ったおれにつられるように、涼子もクスクス笑っている。


そして、背中からそっと手を離した。


振り向いてみると、涼子さんの後ろ姿がそこにあった。


腰の後ろで手を組んで、池の方へ向かいながら、涼子さんが言った。


「夏井は、絶対に南校を引っ張っていくエースになる」


池の手前で立ち止まり、涼子さんは夜空を仰いだ。


その華奢な左手の薬指に輝くリングから、目を離せなかった。


夏の夜空に散らばっている星屑にも劣らないほど、細かく光輝いていた。


「常にクールでポーカーフェイス。けど、誰よりも野球に一直線な男だよ」


夜空に向かってそう言ったあと、涼子さんはくるりと可憐に振り向き、おれを指差した。


「夏井は、そういう男だよ」


「何すか、急に」


青春映画のような台詞を恥ずかしげもなく言い放った涼子さんが、凛々しく見えた。


逆に、こっちが恥ずかしくなるほどだった。


「涼子は男を見る目があるなあ。夏井に惚れるなんて、なかなかだ」


「ちょっと、涼子さん。何言ってるんすか」


おれが笑うと、涼子さんも笑いながら続けた。


「けどさ、おれもなかなかいい男だと思うんだけどなあ」


そう言って、涼子さんはとてつもなく女の顔をして、続けた。


「……そう言われたの。淳平が言ってくれたの。おれじゃだめかなって」


だから、今はすごく幸せ。


そう言って、涼子さんは左手を夜空にかざしてにっこり笑った。