華奢で小柄な体型。


胸下までの黒く真っ直ぐな、さらさらの髪の毛。


耳元できらきら揺れる、小さなスターのロングピアス。


「夏井くん」


しとやかな、おっとりとした口調に少し懐かしさがよみがえった。


でも、誰なのかさっぱり検討がつかない。


彼女はおれの顔を、右手で2、3回扇いだ。


甘ったるい、フローラル系の香りがした。


こういう香水をつけている女友達も、おれにはいない。


「夏井くんったら」


そう言って、彼女は左手でおれの顔を扇いだ。


左手の薬指に、瞬きが必要なほどきらびやかな、華奢なリングが輝いていた。


翠の長い爪とは対称的で、短く切り揃えられた爪からは、なんとなく家庭的な雰囲気が滲み出ていた。


見れば見るほど、ますます、この人の正体が分からなくなる一方だった。


そもそも、おれが知っている女といえば、みんな活発なのだ。


こういう昭和的でしとやか美人の知り合いは、いない。


だめだ。


おれは、観念した。


目の前に居る彼女に、とりあえず頭を下げた。


「すいません。失礼ですけど、誰っすか」


恐る恐る顔を上げると、彼女は口元を手でそっと押さえて、クスクス笑った。


きれいに笑う人だと思った。


「ちょっとショックだなあ。私、そんなに影薄かったんだ」


そう言って、彼女は細い肩をすくめながら、でも、やけに楽しそうに笑った。


この人が誰なのか、ますます分からなくなった。


例えば。


相澤先輩の彼女の若菜さんだとしたら、もっと背が高くてさばさばしているし。


にっちもさっちもいかなくなった末、おれは素直に謝ることにした。


「すいません。分かんないっす」


だんだん、本当に申し訳なくなってくる。


おれはうつ向いた。


すると、彼女はフフッとしとやかに笑った。