そのひとは細身のスキニージーンズを履いていて、シンプルな白いTシャツを着ていた。


長い黒色で、日本人形のように艶やかなストレートの髪の毛。


小さな顔と、おちょぼ口。


細い腕。


「あいたたた……」


彼女はゆっくりと立ち上がり、スキニージーンズを両手でポンポンと払った。


かなり驚いた。


大丈夫ですか、と気遣いの一言すらかけてやれないほど、おれは呆気にとられていた。


「夏井くん」


彼女と目が合った。

「えっ」


なぜ、この人がおれの名前を知っているのだろうか。


「久しぶりだね。こんばんは」


転んじゃった、恥ずかしい、と言いながらぱっつん前髪に手ぐしを入れて、彼女は恥ずかしそうにぺこりと会釈をした。


「あの……」


誰ですか? 、と訊くのは失礼だろうか。


こんな女性を、おれは知らない。


そもそも、おれと話すような女は限られているのだ。


翠、結衣、明里。


それから、マネージャーの花菜。


母さんとさえちゃん。


他にはいないかと頭をフル回転させてみたけれど、やっぱりそれくらいしか思い当たらなかった。


彼女がにっこり微笑みながら、おれの目の前まで歩いてきた。


「今、大部屋の方に顔出したんだけどね。夏井くんは中庭にいるって、キャプテンの子が教えてくれて」


「あの、ちょっと待ってください」


とおれは言い、ぐるぐる回って混乱しはじめた頭を、左手で抱えた。


シャンパンゴールド色で華奢なデザインの、サンダル。


たぶん、これは、ペディキュアというやつだ。


以前、翠がやっていたのを見たことがあるから分かる。