「ったくよお」


ぶつぶつ文句をたれながら、大輝もイガも……気付けば、健吾の皿はカツのデカ盛り状態になっていた。


トンカツの山が今にも崩れそうだ。


「うっ! ううっ」


突然、勇気が苦しそうに胸をドンドン叩いた。


「勇気? つっかえたのか?」


心配になって声を掛けると、勇気は涼しい顔でケロッとして、しれっと答えた。


「いや、全然」


そう言って、勇気は健吾に謝った。


「ごめん。岩渕先輩」


「あ?」


「今、カツを出そうとして頑張ったんだけど……どうしても吐き出せないっす」


はあ、と大きな息を吐いて、健吾はうんうんと頷きながら勇気の肩を叩いた。


「いや。もういいんだ、勇気。気にすんな」


「けど」


「そのカツも、勇気の胃袋におさまれて幸せだと思うぞ。うん。大切に消化してやれ」


たまらず、吹き出しそうになった。


なんて緊張感の欠片もないのだろう。


決勝前夜にここまで悠長に食事をしている高校球児は、たぶん、おれたちくらいなんだろうなと、可笑しくてたまらなかった。


夕食を終えて風呂に入ったあと、みんなは素振りに出て行ったり、フォーメーションの確認をし合ったりして、時間を過ごしていた。


花菜はユニフォームを乾燥機にかけたり、それをハンガーにかけたり、相変わらずテキパキと仕事をこなしていた。


今日の東ヶ丘と西工業戦を録画したものを、岸野の村上が部屋で見ながら話し込んでいた。


「岸野」


おれが声をかけると、DVDを一時停止させて、岸野が振り向いた。


「どうした?」


「おれ、中庭で風に当たってくるから」


「うん。分かった。何かあったら呼びに行くから」


「悪い」


そう言って部屋を出ようとした時、村上が声を掛けてきた。