左肩が痛みながら、熱くなっていた。


車は駐車場を出て、病院から遠ざかって行く。


「肩、痛いんだろ?」


相澤先輩に言われて、おれは素直に頷いた。


そんな事を隠したって、どうにもならない。


痛いものは、どうあがいたって痛いのだから。


「外れそうなくらい、痛いっす」


「だろうな。1人で投げ抜いてきたんだから、当たり前だ」


一回戦から、気が遠くなるほどの球数を放ってきたおれの左肩は、たぶん、崩壊寸前だ。


特に、今日の桜花戦で、さらにひどくなっていた。


「「けど」」


おれと相澤先輩の声が偶然重なって、おれたちは同時に吹き出した。


「何だ、言ってみろよ」


相澤先輩がハンドルを握りながら、楽しそうに笑った。


「相澤先輩が先にどうぞ」


「おれは後でいいよ」


譲り合いをしながら、おれたちはそれ以上を言わなかった。


たぶん、同じ事を言おうとしていたのだと、なんとなく分かるのは、同じポジションを経験しているからだ。


野球グラウンドで、1番高い、マウンド。


旅館に到着するまで、おれたちは譲り合いを続けて笑い続けた。


旅館に到着した時、もう7時に5分前で滑り込みセーフだった。


「後で、サプライズゲストが来るぞ」


駐車場に車を停めながら、相澤先輩が言った。


「サプライズゲスト?」


「まあな。差し入れ持ってくるって言ってたから」


「誰っすか?」


どんなにしつこく問い質しても、相澤先輩は頑として教えてくれなかった。


旅館に駆け込み、監督にあいさつをして、夕食をとろうと大広間に向かった。


「来たっ!」


顔を上げると、大広間の襖がバンッと閉まった。


みんな、待っててくれてたんだろうな。


悪いことしたな、そう思いながら襖を開けて、たまらず笑ってしまった。


笑わずにはいられなかった。