夕陽が沈んだ空は、透き通った黄昏色をしていた。
静かな駐車場に行くと、車で相澤先輩がFMラジオを爆音にして、シートを倒して目を閉じていた。
助手席のドアを開けても、相澤先輩は微動だにせず、目を閉じたまま話し出した。
「翠ちゃん、元気だっただろ?」
「はい。遅くなってすいませんでした」
やけに緊張した。
相澤先輩が、真剣な声で話すからだ。
空気がピリピリしていた。
シートに深く沈んで、ドアをバタリと閉める。
相澤先輩はシートを倒したまま、起き上がろうともしないし、口を開こうともしない。
FMラジオからはもう野球中継は流れておらず、クラシック音楽とヴァイオリンとピアノの協奏曲が流れてくる。
「相澤先輩」
恐る恐る声をかけると、相澤先輩は目を閉じたまま、ゆっくりと言った。
「夏井、もう、気持ちを切り替えろ」
「え?」
「お前は、たった今から、南高校のエースに戻るんだ」
そう言って、相澤先輩はようやく体を起こして、シートも起こした。
「東ヶ丘」
どきりとした。
心臓がばくばく言った。
「9回裏、5対2で西工業が負けてた。こりゃあ、東ヶ丘だなって」
そう言って、相澤先輩はラジオのヴォリュームを低くした。
「やっぱさ、夏ってのは怖いな。どこも強い」
9回裏、5対2でリードしていたのは、東ヶ丘高校だった。
しかも、ツーアウト、ランナーなし。
そんな状況、だれだって東ヶ丘の勝利を思ったに違いない。
でも、やっぱり野球はいつ何が起こってもおかしくないのだ。
ツーアウトから、西工業は打線を爆発させた。
みるみるうちに塁は埋め尽くされ、9回裏のツーアウトから試合は最後の動きを見せた。
西工業の連打を浴びた東ヶ丘のエースはマウンドに崩れ落ち、9回裏、5対6。
サヨナラ三塁打。
「勝ったのは、西工業だ」
そう言って、相澤先輩は何かを威嚇する目付きをして、エンジンをかけた。
静かな駐車場に行くと、車で相澤先輩がFMラジオを爆音にして、シートを倒して目を閉じていた。
助手席のドアを開けても、相澤先輩は微動だにせず、目を閉じたまま話し出した。
「翠ちゃん、元気だっただろ?」
「はい。遅くなってすいませんでした」
やけに緊張した。
相澤先輩が、真剣な声で話すからだ。
空気がピリピリしていた。
シートに深く沈んで、ドアをバタリと閉める。
相澤先輩はシートを倒したまま、起き上がろうともしないし、口を開こうともしない。
FMラジオからはもう野球中継は流れておらず、クラシック音楽とヴァイオリンとピアノの協奏曲が流れてくる。
「相澤先輩」
恐る恐る声をかけると、相澤先輩は目を閉じたまま、ゆっくりと言った。
「夏井、もう、気持ちを切り替えろ」
「え?」
「お前は、たった今から、南高校のエースに戻るんだ」
そう言って、相澤先輩はようやく体を起こして、シートも起こした。
「東ヶ丘」
どきりとした。
心臓がばくばく言った。
「9回裏、5対2で西工業が負けてた。こりゃあ、東ヶ丘だなって」
そう言って、相澤先輩はラジオのヴォリュームを低くした。
「やっぱさ、夏ってのは怖いな。どこも強い」
9回裏、5対2でリードしていたのは、東ヶ丘高校だった。
しかも、ツーアウト、ランナーなし。
そんな状況、だれだって東ヶ丘の勝利を思ったに違いない。
でも、やっぱり野球はいつ何が起こってもおかしくないのだ。
ツーアウトから、西工業は打線を爆発させた。
みるみるうちに塁は埋め尽くされ、9回裏のツーアウトから試合は最後の動きを見せた。
西工業の連打を浴びた東ヶ丘のエースはマウンドに崩れ落ち、9回裏、5対6。
サヨナラ三塁打。
「勝ったのは、西工業だ」
そう言って、相澤先輩は何かを威嚇する目付きをして、エンジンをかけた。