何というむちゃくちゃな事を言うのだろうか。

大きな目の奥を輝かせてとにかく必死に、でも、翠が何かを企んでいる事だけは分かった。

艶っぽい唇をにやりと歪ませ、白い歯を見せて笑う時の翠は、おおかた良からぬ事を企んでいる。

中学生の頃、同じ学年で隣のクラスの女子と、おれは付き合ったことがある。

でも、それは肩書きみたいなもので、手を繋ぐ事が精一杯のさくらんぼのような小さい恋に終わった。

だから、はっきり言って女の事は無知に近い。

女の気持ちなんて考えた事すら、おれはない。

でも、そんなおれにですら手に取るように分かった。

翠は、また。

またまた、何かとんでもない事を企んでいるに違いない。

「ちょっと! 聞いてんのかよ、補欠! 耳、ちゃんと機能してますかあ?」

少し錆びたフェンスに細くて爪の長い華奢な指を絡ませ、ガシャガシャと揺らす翠は動物園の獣のようだ。

フェンスと一緒に翠の耳元でシルバーピアスがカシャカシャと揺れていた。

「ちゃんと機能しとるわ! てかさ、用事があるなら何で教室で言わなかったんだよ」

「仕方ないじゃん! タッチの差だったんだから」

「はあ? 何だよ、それ」

おれは、いつも思う。

毎日だ。

翠との会話は、いつも頭を使う。

フル回転だ。

何かを質問のすると、大概はとんちんかんな答えが返ってくる事が多い。

7対3の高い割合で。

それに、翠からの質問もだ。

主語、述語、助詞。

全ての位置や順番がしっちゃかめっちゃかで、頭を使わなければいけない。

「あたしだって必死なんだよ、これでもね。本当にタッチの差だったの」

「タッチの差って?」

俺が訊くと、翠は何も答えずに黙っておれの顔をじっと見つめた。

「まあ、いいや。どんな理由があったのかは分からないけど。グラウンドにまで押し掛けて来るなよ」

自己中な女だな、そう言って、おれは口を尖らせてさっさと投球練習の準備に取りかかった。