「お前は、いつ見てもフランス人形みたいだよな」


おれは翠の手をほどいて、その華奢な手を握り締めた。


「なんで? 明日、決勝じゃないの?」


翠の目から、ぽろぽろと涙がこぼれる。


「翠が苦しかったときに、そばにいてやれなくて、ごめん」


野球を捨てて、側を離れずに居てやれたら、今、翠は泣いていなかったのかもしれないのに。


でも、おれは野球を捨てることができない。


翠と同じくらい、野球も大事だからだ。


おれたちの約束が、この頼りない左腕にかかっているからだ。


翠が、おれの手をそっと握り返してきた。


「悪い冗談とか……やめてよ」


心臓に悪いじゃん、なんて、翠は泣きながら笑った。


それから直ぐに顔だけを窓辺に向けて、翠はおれの手をもっと強く握り締めた。


「じゃなくて、本当は、そんな事が言いたいんじゃなくて」


こんなに近距離にいるのに、手を繋いでいるのに、翠が居なくなりそうで恐ろしくなった。


すくっても、すくっても、指の隙間からさらさらこぼれていく白い砂みたいだ。


「翠。泣くなよ」


「バカじゃないの。泣いてない!」


強気に言い放ち、翠はかなりの泣きっ面でおれを睨んだ。


「泣いてるじゃんか」


おれがクスクス笑うと、翠は蚊が鳴くようなヒョロヒョロの声で言った。


「会いたかっただけだよ」


「え?」


「ただ、とにかく。補欠に会いたかった」


そう言って、翠はおれのポロシャツの胸元を掴んで、ぐいっと引き寄せた。


おれの胸元でカタカタ震える翠が愛しくて、恋しくて、大好きでたまらなかった。


翠は、怖かったのだと思う。


突然、苦しくなって、目が覚めたらもう幾日も過ぎていて、不安だったのだと思う。


あの高飛車な翠が、こんなことを漏らすくらいだったのだから。


「もう、会えないって思ってたから」