はためくカーテンの裾から、ベッドの脚とシーツが見えた。


突然、いきなりカーテンを開けるのは失礼だろうし、そんな大それた事をする勇気も、おれにはない。


「入るよ」


そう言ってから、おれは左手でカーテンをそーっと開いた。


白くて細っこい腕に、何本もの点滴。


ぶかぶかの病衣から見える、華奢な鎖骨。


しせんをゆっくりゆっくり上げていくと、美しい色の唇があった。


痩けた頬に、涙が伝った後がある。


長い睫毛に、ミステリアスな瞳。


全部、全部、この手のひらにおさめてしまえたら、どんなに幸せなのだろう。


そうすれば、いつだって一緒に居られる。


陶器のようななめらかな額に僅かに汗を滲ませながら、翠は目尻が引きちぎれそうなほど、目を大きくしていた。


その大きな目から、残涙がぽつりと伝い落ちた。


「ウソ」


翠の唇が、震えながら言った。


さっき激しく泣いた時に、顔中を手でこすったのだろう。


包帯で巻かれた頭から後れ毛が出ていて、翠の口角に張り付いていた。


翠は泣くわけでもなく、ただ間抜けな埴輪のような顔をして、おれを見つめていた。


「ウソじゃねえよ。ほんと」


そう言って、おれは翠の口角から、絹糸のような髪の毛をそっと取ってやった。


点滴だらけの手で、翠がおれの左手を素早く捕まえた。


この暑さなのに、つめたく、ひんやりとした手のひらだった。


あんた、誰? 、とでも言いたげに翠が表情を歪めていた。


「どうしても会いたくて、翠に会いたくて。会いに来た」


おれが言うと、翠は目に大量の涙を浮かべた。


「冗談は……顔だけにして」


「失礼だな」


「サル! ハゲ!」


猿顔に、坊主頭をけなされているっていうのに、おれは嬉しくてたまらなかった。