「よし、復活」


「大丈夫?」


「当たり前だろ! じゃあ、翠に会わせてあげる」


ついて来な、そう言って、さえちゃんはおれの前をすたすたと歩き始めた。


タチアオイを生けた花瓶を、大切そうに胸に抱きながら。


「結衣と明里は?」


おれが訊くと、ううん、とさえちゃんは首を振った。


ほとんど、おれと入れ替わりの状態で、2人はついさっき帰って行ったらしかった。


病室の前まで来た時、さえちゃんが振り向いた。


そして、ひそひそと小声で言った。


「朝方、意識が戻ったばっかなんだけどさ。けっこう元気なのよね」


つられて、おれも小声になってしまう。


「そんな驚異的に回復するもんなの?」


「さあ……けど、先生が個室なら大丈夫だろうって。翠は普通じゃないからさ」


そう言いながら、さえちゃんはクスクスと楽しそうに笑った。


「起き上がるのは、まだ無理かな。さすがの翠でも」


「分かった。無理させないようにするよ」


おれも、静かに笑った。


「翠、具合どう? 変わりない?」


そう言いながら、さえちゃんが先に病室に入った。


おれも、あとに続く。


6畳くらいの窮屈な個室には、監視カメラがとりつけてあった。


西の窓ががらりと全開に開け放たれていた。


西陽が淡い淡い朱色になって、病室をまんべんなく優しい雰囲気にしている。


ベッドの回りを囲むようにクリーム色のカーテンが引かれていて、ふわふわと裾が揺れていた。


きらびやかなハープの音色のようにカーテンが揺れる。


西陽色のオーロラのようだった。


このオーロラのすぐ向こうに翠が居るのだと思うと、少し緊張した。