太陽が見てるから

夕方の病院は、優しいと思う。


病棟の廊下は、特に。


窓からは西風が入ってきて、床に西陽が射し込んでいた。


「すいません」


ナースステーションに立ち寄り、翠の病室に変わりはないか訪ねると、明らかに新人と見えるナースが教えてくれた。


「病室、移動したんですよ。翠ちゃんは、512号室にいます」


「ありがとうございます」


お礼を言って、その部屋を目指した。


トイレの手前には洗濯場と洗面所があって、洗面所に見覚えのある姿があった。


硝子細工の花瓶に、水を入れている女性がいた。


「さえちゃん」


おれが声をかけると、さえちゃんが弾かれたように顔を上げた。


大会前日に会った時より、少しやつれていた。


痩けた頬を赤くして、さえちゃんは目を大きく見開いた。


「響ちゃん! 何で?」


予想通りの反応だ。


まさか、こんな大事な時に来るとは、想像すらしていなかったのだろう。


明日は夢にまで見た決勝なのに、ここに来るなんてこれっぽっちも思っていなかったはずだ。


「なんで?」


さえちゃんは洗面台に花瓶を乗せて、おれのところに走ってきた。


「明日、決勝でしょ! 何やってんの?」


「うん。監督が行けって言ってくれて。たぶん、相澤先輩が掛け合ってくれたと思うんだけど」


おれが言うと、さえちゃんはすぐにピンときたようだった。


「相澤先輩って、あのイケメンか! 結衣ちゃんと明里ちゃんを乗せてきてくれた人」


「うん。そう」


おれが頷くと、さえちゃんはおれの肩を撫でながら笑った。