『ええ。楽しみですね』


FMラジオは、白熱していた。


強力打線の、東ヶ丘か。


それとも、粘り強いノーシードから這い上がってきた、西工業か。


おれは、明日、どちらと闘うことになるのだろう。


少し緊張しながらFMラジオに耳を傾けていると、相澤先輩がぽそりともらした。


「気になるか? どっちが決勝に駒を進めてくるか」


「そりゃあ、まあ」


図星をまんまと突かれて、おれは苦笑いした。


さすが、相澤隼人だと思う。


2年前、南高校を甲子園に導いたエース左腕、相澤だ。


「どっちが来ても、ビビることねえよ」

「は?」


「だって、夏井は夏井の投球するしかねえんだから」


おれは、う、と言葉を詰まらせた。


「守備も攻撃も。これは当たり前のことだけど」


そう言いながら、相澤先輩はハンドルを左に切った。


病院のロータリーを回り、車はゆっくりと減速しながら駐車場に入った。


時刻はすでに夕方の4時を回る直前だった。


がらがらに空いたスペースに停車させて、相澤先輩がおれを見つめた。


「成功するまで続けたやつだけが、成功をつかみとれる」


青空が、淡く茜色をおび始めていた。


「勝つまで投げ続ける投手だけが、勝利を手にする」


相澤先輩の言葉は、いつもおれの胸を刺激する。


鳥肌がたつ。


「おれが責任持って試合結果教えてやるから」


たまには夏井があの子をびっくりさせて来いよ、と相澤先輩は笑った。


「へ?」


「夏井が病院に来ること、翠ちゃんは知らないからさ」


たまにサプライズってのも悪くないだろ、そう言って、相澤先輩はおれの胸のあたりをひと突きした。


「翠ちゃん、意識しっかりしてるよ。だから、突然、夏井が現れたらびっくりして泣いちゃうかもなあ」


相澤先輩は楽しそうにげらげら笑った。


「いや、無いっすね。翠が泣くなんて」