『只今、2回の裏の攻撃が終わって、0対1で西工業のリードです』


引き続き中継を続けます、そう言って、FMラジオはCMに切り替わった。


「西工業か」


ぽつりと呟いて、おれは太ももの上に乗せていたタチアオイを見つめた。


やはり、美しいと思う。


赤信号が青に変わり、車が再び走り出した。


相澤先輩がハンドルを右にきりながら、訊いてきた。


「その花、翠ちゃんに?」


「はい。旅行の中庭に咲いてたやつ、分けてもらったんですよ」


きれいでしょ、とおれが言うと、相澤先輩は横目でちらりと見て、クスクス笑った。


「まあ、確かに綺麗だな」


「でしょ」


「でも、翠ちゃんのイメージじゃないかな」


え、と声を漏らして、おれは口をつぐんだ。


「あの子、ひまわりってイメージかな。おれはね。ほら、翠ちゃんて元気で明るいイメージ」


明るくて、真っ直ぐで、お日様みたいな子だ、と相澤先輩は言った。


確かに、他人から見ればそうなのかもしれない。


でも、おれから見える翠はタチアオイだ。


「ひまわりっすか?」


えー、と否定的な声でわざとらしく言うと、相澤先輩はブハッと豪快に吹いた。


「じゃあ、夏井にはどう見えるんだよ」


「これ!」


おれは、3本あるタチアオイのうち、1本だけその色のタチアオイを指差した。


「絶対、これですね」


濃ゆい、濃ゆい、濃厚なショッキングピンク色のタチアオイだ。


「えー! その色はちょっと派手すぎだろ。ひまわりのが、絶対ぴったんこだって」


「いや。断然、こっちっすね」


おれは自信満々に言って、胸を張った。