「夏井! 何とろとろしてんだよ」


玄関前には白い乗用車が停まっていて、待ちくたびれ顔の相澤先輩がいた。


「わりっす」


「早く乗れ」


「おす」


車の中は、真新しい匂いがした。


エンジンがかかる。


その時、FMラジオが爆音になっていて、おれの耳を突き抜けた。


カン。


金属の音。


それから、わあっと膨らむ大歓声。


解説者が興奮した声で中継していたのは、東ヶ丘と西工業の準決勝だった。


車が静かに走り出した。


『2回裏の攻撃、ついに試合が動きました』


ただでさえ高いヴォリュームを、おれは更に高くした。


『先制点! ノーシード、西工業高校!』


車は夏空の下を、風を切り開きながら加速する。


『今年の県予選は異例とも言えますね』


『シード校が次々に敗れ、ノーシードが3校もベスト4入りですからね』


おれも、相澤先輩も、地元FMラジオに耳を研ぎ澄ませながら、ウインドウから入ってくる熱風に身を委ねた。


『唯一のシード校も敗れましたからね』


『そうですね。一回戦の桜花大附属と南高校戦も、息を呑むゲーム展開でした』


『本当ですね』


『大本命と言われていた桜花大附属を、ノーシードの南高校が下して、番狂わせがありましたからね』


『うーん。延長14回ですか。夏の怖さを改めて見せつけられましたね』


二車線の大通り、十字交差点で赤信号につかまり、車が停車した。


「なんか気に食わねえなあ。南高のこと、誉めてんだかけなしてんだか」


チッと舌打ちをして、相澤先輩はヴォリュームを下げた。


「ちょっと! 相澤先輩、聞こえないっす」


慌てて、おれはヴォリュームを上げた。