気高い美。


いつも、しゃんと背筋を伸ばして真っ直ぐ前を見ている、翠みたいだ。


高貴、か。


日本人のくせに、ヨーロッパの貴族のような堂々たる振る舞いの、翠みたいだ。


フランス人形みたいだ。


熱烈な恋。


ドラマのように燃え上がるような恋とは言えないけれど、おれはたぶん、翠に熱烈な恋心を抱いているのだと思う。


「もう、梅雨明けも近い。花が咲き終わりそうだからね」


「そうですね」


「タチアオイが終わると、ここに、都忘れという花も満開になりますよ」


「へえ」


なんて、興味深そうな相づちをしながら、でも、全く興味はそそられなかった。


花言葉というやつを知ってから、おれはタチアオイに夢中になった。


「支配人さん」


おれが声をかけると、支配人は、はい、と首を傾げながら微笑んだ。


「もし良ければ、タチアオイを1本、頂けないっすか?」


支配人は、良い、とも、だめだ、とも言わなかった。


ただにこにこして、予想を大幅に外れた質問返しをしてきた。


「誰かに、贈るのですか?」


「はい。おれの彼女に。これから会いに行くところです」


「これからですか?」


なんて不謹慎な高校球児だろう、と思ったに違いない。


決勝を控えながらも、宿を抜け出して彼女に会いに行くなんて、と。


支配人は口をぽかんと開けて、おれを見つめた。


「これからです。実は、病気で入院してて。決勝前にどうしても会いたくて」


おれが肩をすくめると、支配人も肩をすくめた。


「それは、大変ですね」


「いいえ。だって、おれの彼女、タチアオイみたいな女なんで」


そう言って、おれは笑った。


翠は、タチアオイみたいだ。


気高くて、高貴で。