純日本の庭に、赤、桃色、白、紫。


鮮やかな花がびっしり咲いている。


ジャパニーズローズ、とでも例えようか。


大きくて艶やかな花びら。


背が高くて、青空によく映える花だ。


その中でも一際美しく見えたのは、喉の奥がまったりとしてしまいそうなほど、濃ゆい濃ゆい、ショッキングピンク色の花だった。


おそらく130センチほどの背丈で、真っ直ぐ伸びた茎。


幾つも花を咲かせて、たまに吹く緩い風にしなっていた。


近所にも咲いている花だ。


でも、こんな美しい色のやつは見たことがなかった。


何度も目にしているのに、花の名前が分からない。


「夏井ー!」


玄関の方から、相澤先輩がおれを呼んでいる。


でも、おれは振り向かなかった。


この気高い色の花、なんて名前なのだろう。


その花の名前が知りたくて、この花を見たとたんにどうして翠が頭に浮かぶのか不思議で、動けなかった。


「あの、すいません」


そこを通り過ぎようとした小走りの中居さんを、とっさに呼び止めた。


「はい?」


色白で、日本人形のようにしとやかな女性だった。


「どうかなさいましたか?」


「あれ」


と、おれは中庭を指差した。


赤、淡紅、桃、白、紫。


中庭を縁取るようにびっしりと立ち並んで咲いている花。


「あれ、なんていう花っすか?」


あの、翠みたいに気高そうな花。


中居さんは、ああ、あれね、と少し呆れたように笑った。


「あれ、支配人の趣味なのよ。あんなに密集してると、少し暑苦しいわよね」


そうだろうか。


この世とは思えないほど、きらびやかで美しいと思う。


「いや。そんなことないっす」


おれが言うと、


「男の子なのに花に興味があるなんて、珍しいわね」


なんて、中居さんはしとやかにくつくつと笑った。