「おす」


木のテーブルに、監督と向かい合って座った。


正座した時、おれの足がパンパンになっていた。


「正座しなくていいから、崩しなさい」


「すいません」


おれがあぐらをかくと、監督が話し始めた。


「今日はよく頑張ってくれたな。おまえらに頭が上がらん」


「いえ」


そんなに緊張するな、そう言って、監督は小さく笑った。


「夏井」


「はい」


「さっき、相澤から電話があった」


今、旅館に向かっているそうだ、そう言って、監督は髭をさすった。


怖い顔をくしゃっと緩めて、監督は肩をすくめた。


「おれは監督失格かもしれん」


「は?」


さすがに肩から力が抜けた。


「明日は決勝だというのにな。おれみたいな甘い監督はいないだろうな」


そんな事を言いながら、監督は満足そうな口調だ。


監督が腕を組む。


「吉田翠のところへ行ってきなさい。相澤が、もうじき、ここへ迎えに来る」


はい、と即答しなかったのは、おれにも意地とプライドがあったからだ。


確かに、翠に会いたい。


会いに行かせて下さい、そう頭を下げようと思っていた。


昨日までは。


「いえ。でも、明日、決勝ですから」


テーブルの下で、おれは手をぎゅっと握った。


「会いたいだろう? 意識が戻ったそうじゃないか」


「会いたいです。でも、明日、優勝してから会いに行けるんで」


決心が鈍らないように、真っ直ぐ、監督の目を見つめた。


すると、監督は呆れたとでも言いたげに、息を吐いた。


「お前は、何を考えているのか分からん。顔に出さないから、どうしたらいいのか分からん」


「え? すいません」


「口数は少ないし、いつも無表情で。実は、おれもコミュニケーション下手でな。すまないな」


こんなことしかしてやれなくて、と監督は言い、テーブルの下からおもむろにそれを出して上に置いた。