「そう。夏井くんと岩渕くんと、えっと、岩崎くんと真っ向勝負するんだって。それが目標なんだって」


中央出入口で、健吾がおれを呼んでいた。


「響也、行くぞ!」


でも、それどころではなかった。


「修司、野球は高校で終わりにするって。もう決めたって」


まりこちゃんの言葉は、おれの体を真っ二つに切り裂いた。


「なんで?」


おれが訊くと、まりこちゃんは悲痛な面持ちで言った。


その細っこいであろう腰を右手でさするジェスチャーをしながら。


「椎間板ヘルニア」


「へ?」


「修司、重い椎間板ヘルニアなの。春にケガして。野球続けるのは難しいって、診断されて」


「嘘だろ?」


「本当。今日も痛み止うって、試合に出てたんだよ」


声が、言葉が出てこなかった。


肩から力が抜けて、スポーツバッグがずり落ちた。


「南高校戦だけは譲れないって。監督の反対押しきって」


なんだか、分かったような気がした。


修司が、なぜ、あんなにも悔しそうにしていたのか。


グラウンドに這いつくばって泣いていたのか。


そして、全てを吹っ切ったような、清々しい顔で胸を張っていたのか。


「修司、プロからも声がかかったの。4球団も。でも、全部断ったんです」


修司なら、有り得る事だ。


別に驚きもしない。


打率4割り超える、名門桜花の不動の主砲だ。


声が掛からない方が不思議なくらいだ。


おれは、左手をぎゅっと握った。


「まりこちゃん」